授乳中の薬

2022.12.17

久しぶりのブログの更新になります。

今日は授乳中の薬について書きます。

授乳中は薬を飲んではいけないと思われている方も多いのではないでしょうか。実は、授乳中に飲んではいけない薬は、ほとんどありません。

たしかに多くの薬の添付文書に、「授乳中は避けさせること」とか「薬を服用中は授乳を中止する」などと書かれています。しかし、この記載にはあまり根拠がないことがほとんどです。添付文書に書かれる根拠のほとんどは、動物実験やヒトの検査で薬が母乳に分泌されたという事実のみで書かれています。つまりかなり少ない量で、実際に赤ちゃんに影響を与える量でなくても、母乳に分泌されれば、添付文書には上のように書かれてしまうことになります。

基本的にほとんどの薬は母乳に分泌されます。ただし、その量は少なく、母乳を飲んだ赤ちゃんに影響を与えない薬がほとんどです。母乳へ分泌される薬の量の指標のひとつに、RID (relative infant dose)という指標があります。赤ちゃんの体重あたりに換算して、赤ちゃんが母乳を介してどれくらいの薬を飲むことになるかという割合です。このRIDが10%以下であれば、授乳中にその薬を飲んでいても、母乳を飲んだ赤ちゃんには影響を与えないだろうという指標になります。そして多くの薬はこのRIDが10%以下であることが分かっています。

例えば、妊娠中、特に後期に飲むと問題になるロキソニンなどの痛み止めは、RIDが1%以下であることが分かっており、まず赤ちゃんに影響を及ぼしません。そのほか、血圧が高いときに飲むニフェジピンやアムロジピンなどの降圧薬、ペニシリン系やセフェム系の抗菌薬なども授乳が可能とされています。抗うつ薬などの精神系の薬剤では、SSRIと呼ばれる抗うつ薬はRIDが低いことが分かっており、授乳中に飲める安全な抗うつ薬として考えられています。

加えて、塗り薬や貼り薬、点鼻薬や点眼薬など、その場所で局所的に効く薬はまず問題ありません。薬が母乳に分泌されるためには、まずお母さんの血液内に入り、血液内に一定の量が流れる(血中濃度があがる)必要があります。局所的に効く薬はごく少量しか血液内に入らないため、母乳にはほとんど分泌されません。

一方、一部の薬ではRIDが10%を超えるものがあったり、RIDが10%以下でも問題になることがあります。ベンゾジアゼピン系の抗不安薬などがこれにあたります。ベンゾジアゼピン系の抗不安薬のRIDは10%以下であることが多いのですが、赤ちゃんが薬を排泄する能力は大人に比べてまだ劣ることが分かっており、連続で飲み続けると赤ちゃんの身体に蓄積する可能性があります。そのほか、躁鬱病に使用されるリチウム、抗原虫薬のメトロニダゾールなどが蓄積するリスクがあるとされています。ただ、これらの薬も飲み方や飲む回数を工夫することによって、薬を飲みながら授乳を続けることが可能になることがあります。

特別な薬を服用中など、その薬と授乳について詳細な情報が必要な場合、国立成育医療研究センター内に設置されている「妊娠と薬情報センター」において、電話やオンラインで相談することができるため、ぜひ活用してください。

[授乳中のお薬相談 | 国立成育医療研究センター]

最後になりますが、薬は薬であって、毒を飲んでいるわけではありません。特別な薬でなければまず問題はないと考えていただいて大丈夫です。一方で、治療に必要な薬を適量、適切な期間飲むようにし、必要のない薬は飲まないようにするべきです。